愛と憎しみの炊飯器 私の好きな家電製品【コンテスト#7】
私は白米があまり好きではない。いきなりのディスりとなることと、本稿を文語体で記述することを許して欲しい。いろいろと理由はあるが3つだけ挙げよう。
- ポロポロとこぼれる
- 炊きたてが熱すぎる
- 特に美味しいとは思えない
それに加え、近年「白米は健康に良くないのではないか」との見解が聞かれるようになって左膝を打った。「やっぱりそうか」と。白米があまり好きではない自分の感覚が正当化されたような気がして「ふふふ」と嫌な笑みが溢れるのを止められなかった。
ところが、私は白米を最後のところまで憎みきれずにいる。「米など要らぬ。パンだ、パスタだ、うどんに蕎麦だ」と主食事変が起こらないのは、そう、炊飯器のせいである。
私は炊飯器が好きだ。いろいろと理由はあるが3つだけ挙げよう。
1. 早い
我々が米を炊く際にすべきことは「1.米を投入する→2.水を入れる→3."炊飯"スイッチを押す」のたった3ステップである。極めて簡便且つ優雅な3ステップで勝手にご飯が炊きあがる。白米があまり好きではない私にさえ毎日ご飯を炊かせてしまう恐るべき存在が炊飯器である。人類の英知。これはもはや呪い(魔法)といっても過言ではない。
2. 安い
私が今使っている炊飯器はハードオフで2,000円で買ってきた代物である。それをかれこれ5年間使っている。未だ壊れる気配はない。炊飯器は正義のヒーロー並に強い。炊飯器は負けない。炊飯器はいつもそばにいるし、なぜか炊飯器の時計は殆ど狂わない。
余談だが、私の実家において最も正確な時刻を刻んでいたのはなぜか炊飯器の時計であった。そして今、それをなんとなく思い出して確認してみたところ、一人暮らしの我が家においても最も正確な時刻を刻んでいたのはなんと炊飯器であった。全ての炊飯器には原子時計が内蔵されていると私は睨んでいる。
3. 美味い
私事が続くことを申し訳なく思うのだが、これだけは伝えなくてはならない。私はかつて、ほんの短い間だけれど農業法人において米を作っていた。そこに吉田さん(仮)という米のプロフェッショナルがいた。彼は巨大な精米機を操作しながら新入りの私に言った。
「米の美味さってのは、結局炊飯器なんだよ。米の品種とか、精米の加減とかいろいろな要素はあるけど、結局は炊飯器。良い炊飯器で炊けば美味い米が炊きあがる」
私がそれに衝撃を受けると同時に右膝を打ったのは、土鍋で米を炊いている友人のことを思い出したからである。彼は「土鍋で炊いた米は最高に美味い」と言って実際に食べさせてくれたが、私にはそれがよくわからなかった。ハードオフで2,000円で買った炊飯器で炊き上げた米のほうが美味しい気がしたし、彼の妻も外で食べる米の方が断然に美味しいと言っていた。
この現象については「土鍋で手間隙かけて炊いたこと=手間隙かけたのだから美味しいはず」という認知バイアスがかかっているのではないかと私は推測しているが(IKEA効果)、もちろん土鍋で米を炊くことを非難しているのではない。私が言いたいのは吉田さん(仮)はプロフェッショナルだったということであり、吉田さん(仮)の(仮)は実は不要であったということである。
従って、あなたが東北の米の産地において米のプロフェッショナルらしき吉田さんと出会った際には、それは吉田さん(真)とみなして頂いて構わない。
そう言うわけで、私は白米への憎悪と炊飯器への愛の狭間にいる。これを米狭間の戦いという。ここテストに出ます。
炊きたての地獄のような熱さのご飯を口に頬張り「チクショー、米なんて二度と食うか」と思った朝食もあったし、炊飯しようと米を計量カップで釜に運ぶ段で米が床にポロポロとこぼれて「ばかやろう、二度と炊飯なんてするか」と思った昼食もあった。「なぜ私は白米を食べているんだろう」と虚無感と共に我に返った夕食もあった。
これからも私は炊飯を続けるだろうし、悪態をつきながら白米を食べ続けるだろう。それは炊飯器を愛しているからであって、白米を愛しているからではない。
しかし、私は知っている。白米は炊飯器の内側にあることを。すなわち、炊飯器への愛には白米への愛も含意されているのだ。
(@steemit-jpさんの【コンテスト#7】私の好きな家電製品に参加させて頂きます)
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